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診断さんのリクエスト:富傭(乖離性ミリオンアーサー) ちょりさん(@chiyo_rin)から

「……おい」
 こんな真夜中にうっかり目が覚めてしまっただけでなく、うっかり視線を横に向けてしまったことを、死ぬほど後悔してもすでに遅い。
 訓練城ヘヴリディーズは、居住している人数こそ少ないが敷地自体はそこそこの広さを誇っている。辺境の地にあるせいで、土地そのものが余っているのかもしれない。
 敷地が広ければ、建物も自然と大きくなる。元は遺跡だったとはいえ、後付けでいろいろと付加された結果として馬鹿みたいに広くなっている城内には当然のようにいくつもの部屋があり、大半が放置されていた。実際に使われている部屋は半分にも満たない。
 なので、ヘヴリディーズを拠点としている四人のアーサーたちも当然、各々ひとりずつ部屋を割り当てられていた。それも、それなりの広さがある部屋だ。調度品も過不足なく揃っており、生活するにはなんの不満もなかった。
 べつに二部屋使ってもなにも言われないだろうが、そうすると自分で掃除をしなければならないスペースが増えることになるので誰もそんな面倒なことをしようとはしない。とにかく、スカアハのように掃除を怠って部屋をゴミ溜めにしない限り、自室から追い出されるようなことにはまずならないわけだ。
 そして、そんな惨状を作り出すような人物は、スカアハ以外にいない。可能性だけを考えれば歌姫アーサーが魔窟に近いものを作りかねないが、彼女はさすがにそこまで人間を捨てていないはずだ。
 それなのに、だ。
 間違いなくここが自分の部屋であることを確かめてから、富豪アーサーは今まで横になっていたベッドの上に上半身を起こし、改めて視線を下へと落とす。
「なぜ、君がここにいる?」
 そこには、どういうわけか人がいた。もちろん、本来この部屋にはいないはずの人物だ。どういうわけか、ちゃんと掛け布団を被っている。しかもこちらを向いて、のんきに目を閉じていた。
 この部屋に設えられてあるベッドは、たしかにそこそこ身長のある男が二人くらい横になってもきゅうくつではない広さを備えているが、そこは今どうでもいい。狭いわけではないが、それ以外にいろいろと問題がある。
 とりあえず、いつの間にか富豪のベッドに潜り込んできた侵入者は、本気寝をしていたわけではないようだ。
 富豪の声にぴくりと睫を揺らすと、ゆっくりとまぶたを開いた。その瞳はしっかりとした光をたたえていて、決して寝ぼけているようには見えない。
「ん? まあ、気にするな」
 案の定、声もはっきりしていた。いっそ酔っ払ってでもいてくれたほうがマシだった気がするのは、たぶん気のせいではない。
「この状況、気にしないほうが無理だろう」
 気のせいではなく、頭痛がしてくる。こめかみを押さえながら呆れと苛立ちを隠さずに首を横に振ると、人騒がせな侵入者である傭兵アーサーが楽しそうに笑った。
 べつに、富豪とてただの男友達が気づいたらベッドに潜り込んでいた、というならここまで動揺はしないのだ。寒いから人肌を暖房代わりにしようとしたとか、ベッドの上で剣の手入れをしかけたはいいが途中で眠くなったので放置してきたとか、掃除の途中でベッドの上が物置になっているとか、いくらでも理由は考えつく。傭兵は寝相が悪いタイプではないので、寝床を提供するくらいべつに構わないはずだった。
 では、構わないはずなのになぜ気にするのか、といえば。
 それはもちろん、今はただの友人同士ではないからだ。一カ月半ほど前から、どういうわけか互いに心を交わす関係になっている。半ば事故のようなものではあったが、後悔はしていない。
 同僚のようなものである盗賊アーサーと歌姫アーサーには、一応まだバレていなかった。スカアハは興味すらないだろう。ウアサハにはバレているかもしれないが、まあなにも言われないので放っておく。
 ただし、キスまでしかしたことがない。じつに、健全なお付き合いだ。
 今、訓練城ヘヴリディーズは戦争に巻き込まれている。しかも、状況としては四面楚歌だ。
 それを望んだわけではないが、回避するという選択肢は最初から用意されていないので仕方がない。富豪としてはそんな非常事態によけいなリスクを負うような要素を作りたくないわけで、少なくとも翌朝身動きできないことになったりしかねないような暴挙は慎んでおきたかったわけだ。
 そのため、常々理性を最優先に自制と我慢を重ねてきているのだが。
 なぜ、よりによって相手がそれを自らぶち壊すような真似をしているのか、それがまったくもってわからない。
「独り寝が寂しかっただけだぞ」
「おい」
「いや、嘘じゃないし」
「おい」
「大体、俺としては気にしてくれたほうが手っ取り早いんだよな」
「どういう意味だね、それは」
 まったく言葉のキャッチボールが出来ていない。そんな気分に陥りながら反射で言葉を返していくと、傭兵がごろりと向きを変えた。ベッドの上で、仰向けになる。
「待ってるだけだと気が遠いことになりそうだから、自分から据え膳を提供してみただけだ」
 まっすぐな視線で見上げられて、とっさには言葉が出なかった。
 本気で、なんと言えばいいのかわからない。自分の自制とか自重とか心遣いとか、そういうものをみごとにぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り込むような言葉を投げつけられたことだけは、よくわかる。
 わかる、のだが。
「……君な」
「ほら、襲ってくれていいんだぞ? というか、これ以上待たせるなら俺から襲うぞ」
 ついに歯に衣を着せることすらしなくなった傭兵が、直接的な言葉を口にしながら人の悪い笑みを浮かべる。
「…………もう、好きにしてくれ」
 それに反論もできず、だからと言って同意もできず、富豪は肩を落としながらそれでも目の前の男の頬に手を伸ばした。


03:09 PM - 14 Oct 15 via Twishort web app

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