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遅刻~だけど~~

久しぶりに参加
#花主創作60分一本勝負

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◆ばれんたいん

ジュネスでのバイトがない日の夜に、晩メシ食ってからふらっと外に出ることがある。

特に意味のないその行動はなんとなく習慣になっていて、思い返してみれば週に何度かは夜の稲羽中央通り商店街をふらついていた。人通りのほとんどない、でも通りの両側に建ち並ぶ建物には灯りがともっているその光景が、今はけっこう好きだった。ここに引っ越してきた当初はどっちかといえば見たくないものだったような気もするのに、不思議なものだ。

理由は、自分でもわかっている。心意気が変われば、見える景色も変わるってモノだ。
よくよく考えればこの夜中の意味のない散歩が習慣になったのだって、たぶん原因は同じところにある。たまたま夜の散歩に出た先であいつにばったり会って、そんな偶然が何度か続いて、もしかしたら今日もって発想が生まれるようになって、結果として習慣になったって感じだ。複雑そうに見えても、俺の行動パターンなんてけっこう単純なものである。

「えーと」

引っ掛けたジャケットのポケットをごそごそと引っかき回す。いつも通り、そこにはのど飴やらなんやらの小さい菓子類が放り込んであった。大体、立ち話のお供になるやつだ。
ポケットの中にだいぶ余裕があることを確認して、今日ジュネスで買ってきたばっかりのチビッココロネを袋ごと突っ込んでおく。俺も好きだけど、あいつも好きだって言ってた。親指サイズでお手軽なので、夜のおやつにはぴったりだ。
仕上げに財布を尻ポケットに突っ込んで、さて出かけるかと部屋を出かけて、ふと思い出す。

「……これも入れとこ」

手を伸ばした先に置いてあったのは、これまたやっぱり今日ジュネスで買ってきたばっかりの小さなチョコレートだ。ひとつ十円(消費税抜)で、いろんな味が発売されていて、味は普通なんだけどなんとなく馴染みがあるヤツだった。ただ、今まで自分で買ったことはなかった、気がする。
なんでわざわざそんな安いチョコレート(ジュネスで買える最安のチョコレートだ)を買ったのか、その理由は自分でも正直なところ、わからない。

今年のバレンタインも、特になにがあったわけじゃなかった。人を殺せるかもしれない物体Xふたたびを食わせられることもなく、そのかわり特別に意味のあるチョコをもらえたわけでもなく、誤解のしようもないほど義理なチョコを数個手に入れて、ある意味この上なく平穏に終わった、気がする。
そのなにも起こらなさがさみしいから自分で安いチョコを買った、というわけではなさそうだ。というか、それなら普通もっとマシなものを買うだろう。せめて、三百円くらいのとか。

「ま、いっか」

よくわからないが、とりあえず買ってしまったものはしかたがない。
それに、今その存在を思い出して、なおかつ持って行こうとした以上、たぶんこのひとつ税込み18円のチョコあいつに――相棒にやるつもりなんだろう、俺は。

「日頃、どっちかっつーと餌付けされてるしな……」

だって、あいつの弁当マジで美味いからしょうがない。心の中で誰にともなくそんな言い訳をしながら、俺はのんびりと家を出た。




「お……おい? 生きてる?」
「半死……」

大体いつもと同じ時間、いつもと同じ場所で。
自販機で買ったホットのやそぜんざいを手でもてあそびながら、はたして今ここで飲むべきか家に持って帰るか悩んでいた俺の前に現れた相棒は、なんだかよろよろしていた。
よく見れば、顔色もよくない。学校で別れたときは元気はつらつとしてたのに、なにがどうしてこうなった? まさか、例の料理の腕が壊滅状態の連中の誰かが、こいつに手作り本命チョコでも贈った結果なんだろうか。

いやでも、こいつも義理チョコしかもらってなかったはずだ。一時期は特捜隊の女子陣全員のフラグを立てていたこいつだが、気づけば自ら全部ばっきばきに折っていた。無意識でやってたんだとしたらすごいが、意識して折ってたともあんまり思えない。とにかくそんな状態なので、まったく脈がない相手にあいつらも本命チョコは贈らないだろう。それも、義理チョコを渡した上で、だ。
完二がくれた感謝チョコには、そんな疑惑が端から存在しない。あいつの料理の腕は、かなりのものだ。

だとすれば一体……と思いかけて、ひとり心当たりを思い出す。

「……もしかして、マリーちゃんのチョコでそうなった?」
「いや……違う……」
「え、違うの」

それはちょっと意外だった。いや、マリーちゃんが飯マズだって思ってたわけじゃなくて、あれだけとんでもねえのが揃ってたら彼女がそうでも驚かないっていうただそれだけのことだったんだけど、どうやら違うらしい。

「じゃあ、なんでそんな死にかけになってんだ?」
「……菜々子がくれたチョコが……物体X仕様だった」
「えっ」

息も絶え絶え、といった相棒の口から転がり出てきた真相は、正直なところ信じがたいことだった。
本気で、なにがどうしてそうなった。

「おいおい、菜々子ちゃんがそんなとんでもねえブツ作り出すはずが……」
「……バレンタインのチョコを手作りするのに、千枝と雪子とりせと直斗にアドバイスを聞いたらしい……」
「うわあ……」

ちなみに、疑問はあっという間に解決した。そりゃダメだ、、直斗が入ってたところで他の三人が強烈すぎる。そりゃ、物体Xにもなる。
しかも、その物体Xを作ったのは菜々子ちゃんだ。いくら見た目からしてヤバくても、このシスコンがそれを食べないハズがない。
……さすがに、完食したとは思えないが。

「ご愁傷様」
「うう……あいつらのメシマズ、本気でなんとかしないと被害甚大……」
「たしかに、菜々子ちゃんまで影響受け出したらたまんねえな」

とはいえ、菜々子ちゃんは素直だし、まだ子供で料理のことをちゃんと知らないだけだから、先に正しい知識を植えつけてしまえばいいような気もした。

「ホワイトデーのお返し作るからって理由つけて、お前菜々子ちゃんにお菓子作り教えてやれよ。そうすれば、たぶん来年からは平和だぜ」
「……うん、それがいいかもな……俺と、あと叔父さんの胃のためにも」

ぶつぶつとそんなことを呟きながら、立っているのも辛いのか相棒が俺の肩にもたれかかる。なにかを訴えかけるように、ぐりぐりと肩に相棒のおでこが押し付けられた。
その重みとあたたかさに、なんとなく腕を上げて砂色の頭を撫でる。

「よしよし」
「ううう……陽介、つらい……」
「生きろ。ほら、マトモなチョコやるから」

空いてるほうの手でごそごそとポケットをあさって、夕方に買った安いチョコをいくつかつまみ出した。いろんな味を買ったから、よく見たら手のひらが埋まるくらいは出てきている。
それを、相棒の目の前に差し出した。俺の肩から顔を上げた相棒が、ぱちくりと砂色の目を瞬かせている。

「え?」
「それで口直ししとけ」
「くれるのか?」
「やる」
「そっか、サンキュ」

まん丸になっていた目が、柔らかく細められる。喜んでくれてるんだって思ったら、じんわりと胸の辺りがあたたかくなった。
俺の手からチョコの山を掠っていった相棒が、今度は俺の肩にあごを乗せた。俺のすぐ耳元に、相棒の口元が近づく。
前髪が、頬をくすぐった。吐息が、耳にかかる。

「ちゃんとホワイトデーにお返しやるからな」
「ぶっ」

――どういう意味で、とは聞かないでおいた。


02:38 PM - 14 Feb 16 via Twishort web app

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