@jikoryouhou
五月 病

出てきたやつ

「あら、お兄様。御顔を見るのも久しぶりですねえ」
「できる限り見たくねえもんでな。特にその目は」
「ご挨拶ですこと。大事な世継ぎが下賎な輩の下賎な噂を真に受けているとは、お父様もさぞかしお嘆きでしょう」
「用があって来た」
「伺いますわ」
「率直に偽りなく答えろ。お前は魔女か」
「いいえ」
「そりゃそう答えるだろうな」
「率直ですし、偽りなく答えましたよ。ご自分で言いつけておいてご不満ですか」
「黙ってろ。これから屋内を隅々まで調べさせる、嫌とは言うまいな」
「どうぞどうぞ、御気の済むようにお好きなだけ。隠し事も疚しい事も何一つ御座いませんもの。どうせまた数ヵ月後に調べに来るんでしょうけどね、全く時期当主ともなろう方がちまちまと…」
「余計なことは言うな。来い」
「は?」
「お前は外に出ていろと言ってるんだ。兵にその邪眼でまやかしでも見せられては堪らん。大体、毎度何も出てこないことの方がおかしい。幽閉されていればこそ何かしらあるはずだろうが、普通は」
「邪眼なんてありませんと何度も…それにお兄様が数ヶ月単位で人を寄越すから疚しい物の溜め込みようも…」
「いいから来い。紅茶の用意をさせている」
「あら?」
「機嫌取りだ。菓子もある」
「いつから女性の扱いが上手くなったんです?婚約者でも決まりまして?」
「余計なことは言うなつってんだ。それと、ベールを被れ」
「お兄様はこれがお好きですね。寡婦に横恋慕なさってるんですか?」
「そんなに俺と女をくっ付けたいか」
「そうすれば少しは私を放っておいてくださるかと」
「叶わぬ願いだ。…お前は毒だ。妹が毒の娘に生まれついたのは俺の不幸だ」
「なんのことやら」
「お前が美しく生まれたのはお前の罪ではない」
「では誰の?」
「誰の罪でもないだろうさ。解かってくれとは言わんが、俺なりにお前を不憫に思ってこうしている。咎無くして罰を受ける妹を想わん兄がいるか?」
「罰なら主にお兄様から受けている気がしますけど…」
「俺だからこの程度で済んでいると思え」
「咎無い罪人を鞭打つとは、お兄様もご苦労なこと」
「ああ、そうして俺は業を負うんだろうな」
「……」
「恨んでいいぞ。お前の恨みなど、比べれば軽いものだ」
「お兄様」
「なんだ」
「その馬鹿真面目なところ、好きじゃありませんけど…愛してますよ」
「うるせぇな」
「たった一人の兄妹ですもの」
「…お互いにな。さあ、ここで大人しくしていろ。外から閂をかけるからな。よもや脱出したりするなよ魔女娘」
「お茶がぬるかったらどうなるか分かりませんねえ」


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